「西寒多神社の森」の植生について大分市教育委員会が調査し、その報告書が『大分市の文化財(第31集)』(昭和53年3月)に掲載されているので、その主要部分を抜粋し以下に転載する。
(1)森林の階層構造
西寒多神社の森の階層構造の概念図を図1に表した。森林はいろいろな植物が空間をうまく利用して、高木層、亜高木層、低木層、草本層、コケ層を形成し共同生活を営んでいる。歴史が古くて安定期に達した森は、階層構造がはっきり分化しているが、若い林や択伐などの人為攪乱があった林は低木層や亜高木層に陽樹が多く、階層構造が不明確になる。西寒多神社の森は階層構造がはっきりしており安定期に達している。
(2)組成と優先度
森林を構成している植物の被度を優占度で表すと、森林の姿がより明確になる。優占度は、表1の判定基準に従って6段階で表している。
高木層の優占種のイチイガシは、樹高15メートル~17メートル、調査面積250平方メートル中に9本生育しており、このうち胸高直径40センチ~70センチのものが6本あった被度は80%に達している。亜高木層はサカキとミミズバイ、低木層はイズセンリョウやアオキ、草本層はツルコウジの優占度がそれぞれ高い。西寒多神社の森を各階層の優占種で表すとイチイガシ―サカキ―イズセンリョウ―ツルコウジ分群集1)によく一致しており、筆者はイチイガシ群集と同定した。なお横浜国大の大野啓一氏は1996年、この林分をミミズバイ―スタジイ群集のムクノキ亜群集に同定している。この見解の違いについては、別の機会に論じることにして、ここでは慣用のイチイガシ群集を用いた。群集名は標微種ばかりでなく、立地の生態的特性を反映した相観を考慮して優占種を用いた方が理解しやすいと考えている。
(3)人為攪乱によるイチイガシ群集の退行
西寒多神社本殿の裏は小高い丘になっており、麓はイチイガシ群集、それを囲むように山腹はアラカシ林、尾根はアカマツ林、その周辺部は伐採されてタラノキ―ススキ群落になっている。本殿を中心に同心円状に広がっている植生の変化は、地形的な要因もあるが、それ以上に人為的要因が強く作用した結果と判断している。つまり、イチイガシ群集が人為干渉によって退行していく過程と考えてよい。
イチイガシ群集が人為によって退行すると、まずイチイガシ群集標微種のイチイガシ、ミミズバイ、イズセンリョウ、ツルコウジなどの標微種が姿を消して、代ってアラカシ、ヤブニッケイ、クロキ、ヒサカキ、などの優占度が高くなり、更にアカメガシワ、ヤマハゼ、ネムノキなどの陽樹が侵入してアラカシ―ジャノヒゲ群集へ退行する。人為干渉や低木層にネジキ、ヤマツツジ、コバノミツバツツジ、シャッシャンボなどツツジ科の植物、草本層にウラジロ、コシダ、コウヤボウキを伴ったアカマツ―ヤマツツジ群集へ退行する。また、コナラ、ヤマハゼ、ネムノキ、アカメガシワ、イヌビワ、ヤブムラサキなど、陽樹の優占度はますます高くなる。
しかし、クロキ、ヒサカキ、アラカシなどの常緑広葉樹は、この群集においても高い優占度を維持しており、人為干渉が少なくなるとコナラ―クヌギ群集を経てアラカシジャノヒゲ群集が復元する。コナラ―クヌギ群落に対して遷移が進まない程度に人為干渉が続いている状態が里山林である。なお頻繁に伐採する人為干渉が過度に加わると、ススキやクズなどススキ群団の植物やヌルデ、タラノキ、ナガバモミジイチゴなどを伴った先駆的植物群落へ退行していく。
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